岸野にとって、映画づくりのどの瞬間が一番嬉しい瞬間ですか?
岸野:編集は地道な作業だけれど、積み重ねていって最終的には完成形に近いところになってくると、「これめっちゃ面白いじゃん!」って鳥肌がたつシーンとかがあったりする。「ここは本当にわくわくする!」とか。そこまでもっていく過程自体も楽しいし、監督に見せて「ここは現場で撮っていたときに不安だったけど、編集で助けてもらったよ」と言われたときは、単純にうれしいな。編集マンとしての役割を果たせたんだと思えると苦労が報われるというか…しんどいけどうれしさが上回りますね。
岸野さんは映画もドラマも手掛けてますが、違いってありますか?
岸野:最初は違うんだろうなと思っていた。初めて「幕が上がる」という作品で映画を手掛けたんですが、映画だったらカット尻を余韻がある感じでとか…そういうイメージでさいなまれることがあったけど、今はそんなに違わないなって思います。
スクリーンのサイズによる違いは?
岸野:スクリーンサイズの違いは映画をはじめてやったときに感じて、試写のセミオールとかの段階で大きいスクリーンで見たら、「このカットこんなに短かったけ?」というような感覚はありましたね。「このカット、このサイズで見るんだったらもっと長くみたいな」とか、その感覚のずれをその時に初めて感じて、編集室でやるときもスクリーンのサイズ感を想像しながら見るように・・・想像しながら見るというのをやることによって最近そのずれがなくなりました。
素晴らしいですね。
岸野:想像できるようなったのかな。あとはテレビは、CMがあるとか尺の制約があったりするからシビアですね。CMをいれるために盛り上げる編集だったりっていうのはありますね。それと、編集のスピード感は違いますね!テレビだとタイトなスケジュールだから、いろいろ試すということが限られてきてしまいますね。映画は長く編集期間がとれるし、その中で素材に対していろいろなアプローチを試す時間がとれる。割りも見ずに素材だけで自分でつないでみて、あとから監督の割と答え合わせしてみたりすることもあります。時間がないテレビの場合はまずは設計図通りにやらないと間に合わないことも多いので、アプローチの仕方は映画のほうが幅が広がりますね。
素材の前後というか監督が想像している割り以上に余白はあった方がいいんですかね?
岸野:確かにやりようは拡がりますが、自分が心地いいというタイミングって一番いいのはやっぱりそれしかなくて。いろいろやってみるけど、やっぱりこれが一番いいとなるから、そこにはまる素材があれば問題ないですね。
編集マンから見ると役者の芝居はワンテイク目がいいことって多いんですかね?
岸野:難しいな(笑) そういうときもあります。熱が抜けちゃってたりとかあるかもしれない。特にエチュードを多用していた前の作品はそういう気があリましたね。不安定さとかとまどっていることが面白くて、よどみがなくなっちゃうと普通の芝居になっちゃうというか…普通だったら切っちゃうようなくだらないシーンをあえて使ったりとかも今回はしました。偶然の産物って練習してでるものじゃないので。何テイクもやってというよりは、その場のアドリブが奇跡で…そういうおもしろさを拾っていくのが今回は楽しかったかな。
私も拝見させてもらいましたが、誰をフォーカスしてみようかで違う感覚になるような多重にかさなる面白さがありました。
岸野:リアクションがおもしろいですよね。オーディションシーンとか大変で、みんな自由にやるから、毎回やってることが違って。素材を見ているときは、ここ面白いなって思ってピックアップするんだけど、それを切って貼ってつぎはぎにしていくと、最初見たときはくだらなくておもしろかったのに、重ねるとおもしろくないな・・・とか。バランスが難しかったです。
色んな感情をつくる編集をしていると思いますが、“笑い”は難しいですか?
岸野:編集でいちばん難しいと思います。泣かせるとか感動させるとかいろいろあると思うけど、笑わせるというのがいちばん難しいです。コメディセンスが苦手分野かも(笑)編集におけるコメディが苦手。
得意分野は?
岸野:得意かどうかはあれですが、泣かせる系は好きですね。自分も泣きながらやったりして・・・・
それは素敵な話ですね。一番にみてもらう編集マンにそんな反応をしてもらえることは、撮影スタッフとしては本当に嬉しい話だと思います。そもそも編集ってどう学んでいくものですか?
岸野:編集は教えるのも難しいし、自分はこれが正解と思っていても、本当にそれが正解かどうかいまだにわからなかったりする。アシスタントのときに、自分の尊敬する編集マンの下にいて同じ素材を触れるとなったときに、自分は自分なりにあいた時間を使って編集をやってみたりしました。仕込みとか仕事はやった上で、空いてる時間で自分なりの編集して…それを尊敬する編集マンがどうやっているか答え合わせをする形で見て、「あ、なるほどな」と!
ただ見てるだけだったら「へえ」だけで終わるけど、実際にやって見るとわかることも多くて。さらに監督とどういうディスカッションをして、どういう直しを加えていくのかというのを実際に見させてもらうことで経験として勉強していくしかないなと思います。編集理論は学校に行っているわけではないので、習ってからこの仕事に就いたわけではないから、いちから現場主義で「見てやって、見て吸収していく」しかなかったですね。